その十五 倍角公式と複素平面の話

 三角関数の単元で三角関数の加法定理と倍角公式を学習する.
正弦・余弦・正接の加法定理は以下の通り.

これらの式でA=Bとおけば二倍角の公式

を得る.
また,B=2Aとおけば三倍角の公式

を得る.
正弦・余弦に関してはその十二で触れたように漸化式を使っても倍角の公式が作れるが,正接についてはそのような漸化式はなかなか思い浮かばない.第一,分数で表される式になってしまいちょっと扱いに困ってしまうかもしれない.

ところが,これを四倍角,五倍角と作っていってみるとあることに気付く.

確かによくわからない分数式になっているが,分母・分子ともtanAの多項式で,分母が偶関数,分子が奇関数になっている.さらに,それぞれの項の係数が二項係数になっているのに気付くだろうか.係数の正負も交互に並んでいる.


 これを説明するには,実は複素平面を利用するのが簡明かと思うので複素平面についても説明してみる.
実数の世界ではを満たすxは存在しなかったが,この方程式を満たす「数のようなもの」を実数とミックスさせて新たな数の世界を作ってみる.
以下,この方程式の解のひとつを「i」と表し,「虚数単位」と呼ぶことにする.また,この新たな数の世界を「複素数」と呼ぶ.
任意の複素数αは二つの実数abと虚数単位iを用いて

と表される.この複素数においてaを「実部」,bを「虚部」と呼び,実部をRe(α),虚部をIm(α)と表す.
この複素数を座標のように平面上に表したのが複素平面(ガウス平面)で,上のという複素数はその実部と虚部を用いて(a,b)という座標に置き換わるのだ. xy平面でのx軸,y軸に相当するものを複素平面では実軸,虚軸と呼ぶ.
また,複素数を複素平面上に表したとき,複素平面の原点Oとαとの距離のことをαの絶対値と呼び|α|と書く.また,αを表す点Aと原点Oとを結ぶ線分と実軸とのなす角をαの偏角と呼び,argαと書く.である.
複素数を絶対値と偏角で表したものを極形式と呼び,絶対値がr,偏角がθである複素数は極形式でと表される.

この極形式を用いて複素数の積と商を計算してみると面白いことが分かる.

となる.積・商の絶対値は絶対値の積・商になり,積・商の偏角は偏角の和・差になる.

αの累乗を考えると,

となり,n倍角が生じるのだ.ここでのポイントはであること.

絶対値が1であれば次のような式が作れる.

これをド・モアブルの定理という.


本題に戻ろう.とすればだった.言い換えるとだ.
いま,偏角のみを考えているので絶対値については考えなくてもよい.分数が面倒なのでとしておくと,だ.とすれば,と書き換えられる.この式の両辺をn乗し,二項係数を用いて展開すると,

となる.
右辺は実数の項と虚数の項とが交互に現れることに注意すれば,

となり,両辺の偏角を比較して

と,正接のn倍角が二項係数を用いて書けることとなった.

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