その七 三平方の定理とヘロン三角形の話

 小学生の時に三角形についていろいろと教わるがいろいろと興味を惹かれたのが直角三角形.ことに三辺が3,4,5の三角形は直角三角形になるというのを聞いていたく感動した覚えがある.
直角三角形
いろいろと調べたり尋ねたりした結果,直角三角形の三辺には特別な関係があって,それは,
三辺の長さがabccが斜辺になる直角三角形にはa2+b2=c2という式が成り立つ. (ア)
というものだった.

 (ア)の定理を「三平方の定理」,もしくは発見者の名をとって「ピタゴラスの定理」という.この定理の証明は何百通りもあり,「最も多くの方法で証明された定理」ということがギネスブックに載っていたくらいである.その中でも有名なのが直角三角形の三辺に正方形を外接させて等積変形により証明するものや直角な頂点から対辺に垂線を下ろし,直角三角形の相似を利用するもの,正方形の中に,その正方形の一辺を斜辺に持つ直角三角形を四つ中に入れるもの等がある.
 その中で相似を利用した証明をしてみよう.

三平方の定理証明∠Bが直角の直角三角形ABCの頂点Bから対辺ACへ垂線を下ろし,垂線の足をDとする.
このとき△ABC∽△ADB∽BDCで,相似比がcabなので面積比が
△ABC:△ADB:△BDC=c2a2b2…(1)
となる.また,
△ABC=△ADB+△BDC
なので(1)より
c2=a2+b2
といえる.

∴AC2=AB2+BC2


 実際最初に挙げた直角三角形でも32+42=25=52となる.では他に三辺が整数の直角三角形はないだろうか,といろいろと探してみたところ,ある本に,
mnを満たす自然数mnに対し,a=m2-n2b=2mnc=m2+n2とすればabcを三辺に持つ三角形はcを斜辺とする直角三角形になる.(イ)
とあったのを見つけ,喜び勇んでいろんな数を代入して調べてみた.

といくらでも作れるのだ(付表参照).(ア)の条件式に(イ)を代入してみると

となって任意の自然数mnで三辺が整数の直角三角形が作れる.三辺が整数の直角三角形を「ピタゴラス三角形」と呼ぶことにする.


 さて,今度は三角形の面積に目を向けてみる.小学校では「底辺×高さ÷2」という式を習うが,三辺の長さが与えれてて高さが与えられてない三角形の面積は先ほど述べた三平方の定理を用いて高さを無理やり出す必要がある.

ヘロンの公式

これが「ヘロンの公式」と呼ばれる面積の公式である.


 ヘロンの公式を使って面積を求めてて思ったことが,「三辺を整数にしててもなんで面積は√がつくんだろう」ということである.「では面積も整数になるのはどんなときだろう」というのがその直後の疑問だ.最初にあげた3・4・5のピタゴラス三角形は三辺,面積とも整数だ. (イ)式から面積はとなって,(イ)式から作られるピタゴラス三角形は面積が整数になる.ではそうでない三角形はないものか.

ヘロン三角形1左図のような三辺が13,14,15の三角形をヘロンの公式で求めてみると,

より,

となる.


面積が整数になる直角三角形以外の三角形が見つかった.三辺の長さ,面積とも整数になる三角形を「ヘロン三角形」と呼ぶことにする.
 実際,この三角形の高さは84×2÷14=12である.ということはこの三角形,左側に12・5・13のピタゴラス三角形,右側に3・4・5のピタゴラス三角形を3倍した9・12・15のピタゴラス三角形があってそれをつなげた形ということになるではないか(ポインタを三角形の上に移動させるとその図になります). ではこんなのではどうか.

ヘロン三角形2 左図では

面積は

となる.


これも実は外側に15・8・17のピタゴラス三角形,内側に3・4・5を2倍した6・8・10のピタゴラス三角形をおいて差し引いた図形である(これもポインタを移動させると図が変わります).
 ヘロン三角形はすべてピタゴラス三角形の組合せばかりなのだろうか.それを三角比を用いて検証してみよう.

 ヘロン三角形は三辺abcと面積Sが整数である.したがって余弦定理から

が導かれ,∠Aの余弦が有理数であることが分かる.
また,面積の公式を変形して

が導かれ,∠Aの正弦も有理数になる.
余弦,正弦とも有理数になったということは,A(または180゜-A)を鋭角に持つ直角三角形の三辺の比は整数比で表されることになる.BやCについても同様に余弦,正弦が有理数であることがいえるので,ヘロン三角形はピタゴラス三角形をうまく組み合わせた三角形であるといえる.


そうだったのか…ヘロン三角形は常にピタゴラス三角形を内包していたのか…というのを見つけたのはさすがに高校に入ってから.


 今度はピタゴラス三角形,ヘロン三角形の性質を調べてみよう.
まずは,ピタゴラス三角形はすべて(イ)式で表しうることを示そう(すべて,というのは相似なものを同一視して考えたうえでのもの).

 三辺の長さabcが公約数を持つなら,最大公約数をdとして
a=a'db=b'dc=c'd
と表しうる.三平方の定理より
a2+b2=c2
だったのでこれを代入して
a'2d2+b'2d2=c'2d2
両辺をd2で割って
a'2+b'2=c'2
と表せる.またa',b',c'のうち二つに公約数が存在すれば残りの一つもその公約数を持たざるを得ないのでa',b',c'はどの二つも互いに素といえる.この「互いに素」の組について調べる.
どの二つも互いに素なabca2+b2=c2を満たしているものとする.自然数nnが偶数なら
n2≡0 (mod 4)
nが奇数なら
n2≡1 (mod 4)
なのでabがともに偶数,または奇数であることはない(両方とも奇数ならばc2≡2 (mod 4)となってしまい不可).abのうち偶数のものをbとしても差し支えない.このとき三平方の定理より
b2=c2-a2=(c+a)(c-a)…(1)
acはともに奇数なのでc+ac-aはともに偶数.そこで
b=2ec+a=2fc-a=2g
とおき(1)式に代入すると
4e2=4fge2=fg
また,acは互いに素だったのでfgも互いに素でないといけない.なぜなら,仮にfgに共通な素因数hがあればf=Fhg=Ghと表せて
a=f-g=(F-G)hc=f+g=(F+G)h
となって互いに素であることに反するからだ.
ということはfgはともに平方数でなくてはならず,
f=m2g=n2
とおくならば
a=f-g=m2-n2c=m2+n2
とかけて
b2=4fg
から
b=2mn
が導かれ,(イ)式と一致する.


(イ)式は万能だったのだ.mnを互いに素で,一方だけが偶数であるようにとればいくらでも新しい比のピタゴラス三角形が作れる.証明の中に出てきたとおりb=2mnmnのどちらか一方が偶数なのでb≡0 (mod 4),したがって
abca2+b2=c2をみたし互いに素ならばabのどちらか一方のみが4の倍数.(エ)
といえる.
同じように
abca2+b2=c2をみたし互いに素ならばabのどちらか一方のみが3の倍数.(オ)
であることを示そう.
自然数nは,nが3の倍数ならばn2≡0 (mod 3),nが3の倍数でなければn2≡1 (mod 3)である.abがともに3の倍数でないとすればa2+b2c2≡2 (mod 3)となり不合理だ.したがってabのどちらか一方のみが3の倍数である.

(エ)(オ)よりピタゴラス三角形の面積
S≡0 (mod 6)(カ)
といえる.(カ)より,ピタゴラス三角形の組合せであったヘロン三角形の面積Tも
T≡0 (mod 6)(キ)
といえる.


 次はヘロンの公式のちょっとした変形からこちらにも(イ)式みたいなものがないか探ってみる.

内接円

なんと,これらはヘロンの公式に出てきた項になってるじゃないか.これを利用してヘロンの公式を変形してみる.



ちょっと雰囲気が違う式ができた.ここで各xyzが整数になることと,(ク)式に何を代入してもいいことを確認しよう.

abcのうち偶数は一つ,奇数は二つだったので
a+b+c≡0 (mod 2)
だ.したがって
-a+b+c=a+b+c-2aa+b+c≡0 (mod 2)
a-b+c=a+b+c-2ba+b+c≡0 (mod 2)
a+b-c=a+b+c-2ca+b+c≡0 (mod 2)
したがってこの三数は偶数となり,xyzが整数となることが保証された.
また,xyzを任意の自然数に取ったときに,三辺y+zz+xx+y
-(y+z)+z+x+x+y=2x>0
y+z-(z+x)+x+y=2y>0
y+z+z+x-(x+y)=2z>0
という不等式を満たす.すなわち三角不等式を満たすのでxyzを任意に決めてもそれに対応した三角形が必ず出来上がる.したがって任意の自然数xyzで(ク)式は意味を持つ.


三角不等式とは,与えられた三辺abcで三角形ができる必要十分条件
-a+b+c>0
a-b+c>0
a+b-c>0

のこと.


 (ク)式を利用してヘロン三角形を探してみよう.ただし何でもかんでもOKというわけではない.
方針1:abcが互いに素であるものを探したいから,xyzの最大公約数は1とする(これらのうち二つは共通の素因数を持ってもよいが残りのものはそれらの公約数と互いに素でないといけない).
方針2:xyzとしても差し支えない(ただしx=y=zを除くためxz).
方針3:式に登場する最大数x+y+zが素数のものは除かねばならない.なぜならxyzはそれより小さい素因数しか持たないからだ.
方針4:x+y+zが5以上の素数pの2倍ならばz=pしかありえない.素数の3倍ならばy=pz=2pか.
方針5:zx+y+zの半分より大きい素数の場合も除く.その素数はxyx+y+zの素因数になり得ないからだ.
方針6:(カ)よりxyz≡0 (mod 2).そうでないと四つすべて奇数になってT≡0 (mod 2)にならない.
方針7:(キ)よりxyzx+y+zのどれか二つが3の倍数,またはどれか一つが9の倍数でなくてはならない.


ではこれらの方針にのっとり,x+y+zの小さい物から順に調べていくと次のような例が見つかった.
x y z x+y+z T2=xyz(x+y+z) T a=x+yb=x+zc=y+z
(青字はピタゴラス三角形)
1 2 3 6 36 6 3・4・5
2 3 3 8 144 12 5・5・6
1 4 4 9 144 12 5・5・8
2 3 10 15 900 30 5・12・13
1 3 12 16 576 24 4・13・15
1 8 9 18 1296 36 9・10・17
5 5 8 18 3600 60 10・13・13
3 5 12 20 3600 60 8・15・17
1 6 14 21 1764 42 7・15・20
6 7 8 21 7056 84 13・14・15
2 9 11 22 4356 66 11・13・20
3 7 14 24 7056 84 10・17・21
1 12 12 25 3600 60 13・13・24
8 8 9 25 14400 120 16・17・17
1 2 24 27 1296 36 3・25・26
2 10 15 27 8100 90 12・17・25
6 7 14 27 15876 126 13・20・21
3 4 21 28 7056 84 7・24・25
1 5 24 30 3600 60 6・25・29
2 3 27 32 5184 72 5・29・30
2 15 15 32 14400 120 17・17・30
7 7 18 32 28224 168 14・25・25
3 8 22 33 17424 132 11・25・30
8 9 17 34 41616 204 17・25・26
6 14 15 35 44100 210 20・21・29
7 10 18 35 44100 210 17・25・28
1 7 28 36 7056 84 8・29・35
1 18 19 38 12996 114 19・20・37
2 13 24 39 24336 156 15・26・37
1 15 24 40 14400 120 16・25・39

上にあげたヘロン三角形の例もちゃんと入ってる.

この表をみて気付くのがピタゴラス三角形の面積について,S=yzという関係が成り立っているということ.

または,

定理の形に書き直せば,
直角三角形ABCの内接円と斜辺BCとの接点をD,△ABCの面積をSとすればS=BD*CD.
となった.内接円を傍接円にしてもよい.なかなか面白い関係.


 次はヘロンの公式の拡張である内接四角形の面積の公式.

四角形のヘロンの公式

A
+C=180゜であることと,正弦による面積の公式,余弦定理から次のように計算してみる.



この式を知ったときにはえらく不思議に思ったもんだがこうやって書いてみるとなんか納得.ちなみにこの式でd=0とすればとなってヘロンの公式がでてくるという自然な拡張になってる.さすがに五角形以上には拡張できないが.


 内接四角形の次は外接四角形の話.
外接四角形

逆に,(コ)が成り立てば四角形ABCDは円に外接するともいえる.したがって,四辺の長さを保ったまま四角形を変形して次のような四角形が作れるはずだ.
内外接四角形すなわち,左図のように四角形ABCDを円に内接し,かつ外接するようにできるのである.



なんと,面積が四辺の積の平方根になるのである.
となる内接四角形は内接・外接四角形(a+c=b+d)のほかにa+b=c+dとなる内接四角形(上の図で△ACD≡△CAEとなる点Eを外接円上に取ったもの)もある.(ク)式みたいなものを目指したのだがもっと単純な結果が得られた.なかなか内接・外接四角形というのはないのだがこのような面白い性質が隠されているのであった.

付表 ピタゴラス三角形
(イ)式
a=m2-n2b=2mnc=m2+n2
にいろいろなmnを代入してできるピタゴラス三角形です.
m n a=m2-n2 b=2mn c=m2+n2
2 1 3 4 5
3 2 5 12 13
4 1 15 8 17
4 3 7 24 25
5 2 21 20 29
5 4 9 40 41
6 1 35 12 37
6 5 11 60 61
7 2 45 28 53
7 4 33 56 65
7 6 13 84 85
8 1 63 16 65
8 3 55 48 73
8 5 39 80 89
8 7 15 112 113
9 2 77 36 85
9 4 65 72 97
9 8 17 144 145
10 1 99 20 101
10 3 91 60 109
10 7 51 140 149
10 9 19 180 181
m n a=m2-n2 b=2mn c=m2+n2
11 2 117 44 125
11 4 105 88 137
11 6 85 132 157
11 8 57 176 185
11 10 21 220 221
12 1 143 24 145
12 5 119 120 169
12 7 95 168 193
12 11 23 264 265
13 2 165 52 173
13 4 153 104 185
13 6 133 156 205
13 8 105 208 233
13 10 69 260 269
13 12 25 312 313
14 1 195 28 197
14 3 187 84 205
14 5 171 140 221
14 9 115 252 277
14 11 75 308 317
14 13 27 364 365
15 2 221 60 229
15 4 209 120 241
15 8 161 240 289
15 14 29 420 421


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