その六 速算の話

 私が小学生だったある日従姉から面白い事を教えてもらった.
「25×25を計算してご覧」
と言われたのでとりあえず計算,625という答えを返した.
「百の位が2×3になってるよね」
と言われて,最初は何のことだか分からなかったのだが
「次は35×35をしてご覧」
…1225が出てきて
「今度は3×4やね」
…!衝撃が走ったと書くと大げさだが,とてもすばらしいものを教わったという感激で次から次へと計算して確かめてみた.
5×5=25 0×1=0
15×15=225 1×2=2
25×25=625 2×3=6
35×35=1225 3×4=12
45×45=2025 4×5=20
55×55=3025 5×6=30
65×65=4225 6×7=42
75×75=5625 7×8=56
85×85=7225 8×9=72
95×95=9025 9×10=90

見事に百の位以上が元の数の十の位×その次の数,下二桁が25になってる.勢い余ってずっと先まで計算した覚えがあって,
105×105=11025 10×11=110
115×115=13225 11×12=132
125×125=15625 12×13=156
135×135=18225 13×14=182
145×145=21025 14×15=210
155×155=24025 15×16=240

やっぱり桁が増えてもさっきの計算は当てはまる.
 中学校で習う文字式の計算でこのことが確認できるが,そのときにこの計算が正しいことが保証されて再び感動を受けた.
一の位が5である数の平方は,(十の位以上の数)×(その次の数)の後ろに25を並べてできる.
一の位が5,十の位以上をAとおくともとの数は10A+5.これを2乗するのだから
(10A+5)2
=100A2+100A+25
=100(A2+A)+25
=100A(A+1)+25
となって,下二桁が25,百の位以上が(元の数の十の位A)×(その次の数A+1)と説明がついた.

う〜ん,今見ても美しい.

 と言った具合でここで取り上げる速算は中学校で習う文字式で理由が裏づけされるものなので安心して読み進んでください.必要であれば電卓を手許に置いて計算の確認をして見てはいかがでしょう.


 さて,この話はちょっと拡張できて,「一の位が5の数の平方」だけでなく,「十の位以上が同じで一の位の和が10の二数の積」にも使える.たとえば
22×28=616 2×3=6,2×8=16
23×27=621 2×3=6,3×7=21
24×26=624 2×3=6,4×6=24
242×248=60016 24×25=600,2×8=16
243×247=60021 24×25=600,3×7=21
244×246=60024 24×25=600,4×6=24

などなど.これも先ほどと同じように文字式で説明すると,
条件の二数の十の位以上をA,一の位を5+B,5-Bとおくことができ,二数は10A+5+B,10A+5-B.この二数の積は
(10A+5+B)(10A+5-B)
=(10A+5)2-B2
=100A(A+1)+25-B2
=100A(A+1)+(5+B)(5-B)
となって,下二桁が一の位の積,百の位以上が先ほどと同じA(A+1)となった.
今度は美しさというより奥が深い,という感じ.
 さらに拡張できるけどこの先はちょっと使いづらい.たとえば
66×19=1254 6×2=12,6×9=54
66×28=1848 6×3=18,6×8=48
41×244=10004 4×25=100,1×4=4
42×124=5208 4×13=52,2×4=8
121×367=44407 12×37=444,1×7=7
124×97=12028 12×10=120,4×7=28

計算方法はさっきと似てるが今度はかけてる二数に共通な同じ桁がない.この計算ができるのはどんなときなのか?
二数を10A+B,10C+Dとすればその積は
(10A+B)(10C+D)
=100AC+10AD+10BC+BD
=100AC+10(AD+BC)+BD
だ.上の計算では百の位以上はA×(C+1)になってて下二桁はB×Dになってた.ということは
100AC+10(AD+BC)+BD=100A(C+1)+BD
両辺から共通項を消去して
AD+BC=10A

こんなふうになればいいらしい.
実際上の例で行くと
66×19=1254 6×1+6×9=10×6
41×244=10004 4×4+1×24=16+24=40=10×4
121×367=44407 12×7+1×36=84+36=120=10×12

でOKのパターン.見つけやすいパターンは66×19=1254のような11の倍数×(十の位と一の位の和が10)ではないかと思う.計算の順序に注意してうまく利用してみてはいかがだろう.


 一の位が5の数の平方の話を知って,「もっと他に面白い計算があるに違いない」と考え,例の電卓でとりあえずはいろんな数の平方を計算し200くらいまでを表にしたような記憶がある.その中で目を引いたのが次の並び.
41×41=1681 25-9=16,9×9=81
42×42=1764 25-8=17,8×8=64
43×43=1849 25-7=18,7×7=49
44×44=1936 25-6=19,6×6=36
45×45=2025 25-5=20,5×5=25
46×46=2116 25-4=21,4×4=16
47×47=2209 25-3=22,3×3=9
48×48=2304 25-2=23,2×2=4
49×49=2401 25-1=24,1×1=1
50×50=2500 25+0=25,0×0=0
51×51=2601 25+1=26,1×1=1
52×52=2704 25+2=27,2×2=4
53×53=2809 25+3=28,3×3=9
54×54=2916 25+4=29,4×4=16
55×55=3025 25+5=30,5×5=25
56×56=3136 25+6=31,6×6=36
57×57=3249 25+7=32,7×7=49
58×58=3364 25+8=33,8×8=64
59×59=3481 25+9=34,9×9=81

ちょっと長いが50×50を中心として上二桁と下二桁を見て欲しい.上二桁は1ずつ増え,下二桁は9×9=81から0×0=0に減ってまた9×9=81に増えてる.これも文字式で説明してみよう.
50前後の数を50+Aと表す(今の場合は-9≦A≦9).すると
(50+A)2=2500+100A+A2=100(25+A)+A2
となって百の位が25+A,下二桁がA2になる.
先ほどの一の位が5の平方に比べて応用範囲が狭いが次のような例もある.
469×469=219961 250-31=219,31×31=961
470×470=220900 250-30=220,30×30=900
471×471=221841 250-29=221,29×29=841

499×499=249001 250-1=249,1×1=1
500×500=250000 250+0=250,0×0=0
501×501=251001 250+1=251,1×1=1

529×529=279841 250+29=279,29×29=841
530×530=280900 250+30=280,30×30=900
531×531=281961 250+31=281,31×31=961

今度は百の位が5,下二桁の平方が1000を超えない範囲での話.
(500+A)2=250000+1000A+A2=1000(250+A)+A2
次はこんな例.
17×97=1649 1×9+7=16,7×7=49
27×87=2349 2×8+7=23,7×7=49
37×77=2849 3×7+7=28,7×7=49
47×67=3149 4×6+7=31,7×7=49
114×914=104196 10×1×9+14=104,14×14=196
214×814=174196 10×2×8+14=174,14×14=196
314×714=224196 10×3×7+14=224,14×14=196
414×614=254196 10×4×6+14=254,14×14=196

上一桁の和が10,残りが同じ数の積.
二数の上一桁,10nの位をを5+A,5-Aとし,残りの数をBとすると,二数は10n(5+A)+B,10n(5-A)+Bと書けて,
{10n(5+A)+B}{10n(5-A)+B}
=(10n*5+B+10n*A)(10n*5+B-10n*A)
=(10n*5+B)2-(10n*A)2
=102n*25+2*10n*5*B+B2-102n*A2
=102n(25-A2)+10n+1B+B2
=10n+1{10n-1(5+A)(5-A)+B}+B2
となって10n+1の位に(10n-1×上一桁の積+残り),それ未満の位にB2が出る.
 やはりこれも拡張してみよう.
77×46=3542 7×4+7=35,7×6=42
36×84=3024 3×8+6=30,6×4=24
26×79=2054 2×7+6=20,6×9=54

さっき出てきた11の倍数のかけざんがこちらにも出た.
二数を10A+B,10C+Dとし,積を考えると
(10A+B)(10C+D)=100AC+10(AD+BC)+BD
今度の計算は百の位以上がAC+B,下二桁がBDとなってるので
100AC+10(AD+BC)+BD=100(AC+B)+BC
両辺から共通項を消去して
AD+BC=10B

さっきと似た結果になったが今度は一の位のBに一致せねばならぬらしい.11の倍数なら十の位と一の位が同じなので両方に当てはまるのも当然か.10n*A+Bと10n*C+Dの積の場合も同様にAD+BC=10Bが成り立てば10n+1の位に(10n-1*AC+B),残りにBDが現れる.


 次は9のかけざん.九九を習ったときに9の段を見て次の事実に気付くだろう.
1×9=9 1-1=0,9-0=9
2×9=18 2-1=1,9-1=8
3×9=27 3-1=2,9-2=7
4×9=36 4-1=3,9-3=6
5×9=45 5-1=4,9-4=5
6×9=54 6-1=5,9-5=4
7×9=63 7-1=6,9-6=3
8×9=72 8-1=7,9-7=2
9×9=81 9-1=8,9-8=1

十の位はかけられる数-1,一の位は9から十の位を引いた数になっている.
9A=10A-A=10(A-1)+10-A=10(A-1)+9-(A-1)
これとまったく同じことを99のかけざんでやってみる.
1×99=99 1-1=0,99-0=99
2×99=198 2-1=1,99-1=98
3×99=297 3-1=2,99-2=97

97×99=9603 97-1=96,99-96=3
98×99=9702 98-1=97,99-97=2
99×99=9801 99-1=98,99-98=1

さっきと同じように,百の位以上はかけられる数-1,下二桁は99から百の位以上の数を引いた数になっている.
99A=100A-A=100(A-1)+100-A=100(A-1)+99-(A-1)
999や9999でも同じことが言える.この計算は実はその一で出した循環小数の計算の中で見つけた副産物のようなものだが面白いのでここであげてみた.


 かけざんばかりを取り上げたが次にわりざんを扱うために最後に2のかけざんを見てみよう.これもそろばんを習ってたときに教頭にトレーニングとして二桁の整数を二倍する暗算が一分で何題できるか毎回やってたような記憶があり,その中で見つけた計算法だ.確立するまでに時間がかかったが….
 たとえば34×2を暗算しよう.四二が八,三二が六で答えが68だ.では37×2をやってみよう.七二十四で繰り上がって三二が六と一で七,だから74.では68×2では?八二十六で繰り上がって六二十二で十三,だから136.小学校で筆算は一の位からやるように教わるのでこの方法だと桁があがったときに時間がかかる.だから上から計算する方法をここで紹介しよう.
 ポイントは繰り上がりの判断.2をかけて一つ下の桁から繰り上がってくるのは一つ下の位が5以上の時だけで,4以下ならば繰り上がりが起こり得ない.これを念頭において
128×2
をやってみよう.頭の1は2倍して2.一個下が2なので繰り上がってこずそのまま2をおいておく.次は二番目の2.2倍すると4だが一個下が8なので繰り上がりが起こって5になる.最後の8を2倍すると16だが十の位はすでに繰り上げてしまったので最後に書くのは6.答えは256. 同じように
142857×2
をやると285714となると思う.これが数字を見た瞬間に頭から書き初めて答えが出るまでに5秒くらいでできるようになったらいい感じ.
 読んだら「当たり前やん」と言われそうだがこれを実行している人間をみたことが実はない.等比数列の問題で210が出てきていやな顔をしてる高校生を何度も見たがこの方法を知らずとも一分かからんと思うんだがなぁ.
 これを応用して2n倍とか5のわりざんができる.2n倍は今の2倍の計算をn回繰り返せば良いだけ.たとえば
6561×8=13122×4=26244×2=52488
19607×32=39214×16=78428×8=156856×4=313712×2=627424

という感じ.これを利用して2100まで暗算したノートが残ってる.次は5のわりざんだが「5で割る」ということと「2をかけて10で割る」ということが同じだという事に気付けば2倍の計算のあとで位を一つ下げ,必要ならば小数点をおけばよい.たとえば
4095÷5=4095×2÷10=8190÷10=819
19683÷5=19683×2÷10=39366÷10=3936.6
216÷25=216÷5÷5=43.2÷5=8.64

という感じ.


 わりざんの最初にあげたのが上の「5のわりざん」だったので今度は「2のわりざん」をやってみよう.これができたらさっきと同様に5倍の計算ができるはずだ.
 手順は2倍の計算の逆をする.一個上の桁が奇数ならばあまりが出て商が5以上,一個上が偶数なら余らず商が4以になる.たとえば
8192÷2
をしてみよう.頭の8を2で割るとそのまま4,次の1は割れず商は0でその次の9は一個上が奇数の1だったので19を2で割って商が9,次の2も一個上が奇数の9だったので12を2で割って6,答えは4096となる.
筆算をやってるのとほぼ一緒だ.残ってる数の判断を奇数,偶数のみで行うのがポイント.今度は1を何回も割ってみよう.
1÷2=0.5
0.5÷2=0.25
0.25÷2=0.125
0.125÷2=0.0625
0.0625÷2=0.03125

小数部分を無視すれば5倍ずつしてるのが分かると思う.「2で割る」ことと「5をかけて10で割る」ことが同じだからだ.これを利用して5倍の計算をしてみよう.
729×5
2で割る手順で数字だけ並べて3645.同様に
729×25=18225
729×125=91125

と5倍5倍の計算が容易にできるのだ.


 次に9のわりざん.ようは2のわりざん同様筆算の手法の改良だが今度は残った数の判断がつきかねる.9の倍数判定を思い出してもらえれば,「9で割ったあまりは各桁の和を9で割ったあまり」だったことを利用して,次のようにやってみよう.
31104÷9
まず頭二つが31なので商が3,あまりが4.次が1なので商が4あまりが5,次が0なので商が5あまりが5,次が4なので商が6で割り切れた.答えが3456
頭から順に見ていって9で割ったあまりを見ると3,3+1=4,3+1+1=5,3+1+1+0=5,3+1+1+0+4=9で一つ上の5に繰り上がって3456.ではもう1題.
65535÷9
まず6,次の位は6+5=11,1+1=2,二回目の加算で一つ上の6が7に繰り上がってあまり2,2+5=7,7+3=10,1+0=1なので一つ上の7が8に繰り上がってあまり1,1+5=6で終わり,答えが7281あまり6
6 5 5 3 5
6+5=11…(2)
1+1=2…(3)
2+5=7…(6) 7+3=10…(8)
1+0=1(9)
1+5=6…(12)
6…(1)
6+1=7…(4)
2…(5) 7…(7)
7+1=8…(10)
1…(11)  
7 2 8 1  
このわりざん法をまとめたのが上の表.かっこは計算の順序.一行目が被除数の65535,二行目が余りの計算.余りの計算で二桁になったときはもう一度十の位と一の位を足し,一つ上の位に1を加算する.それをまとめたのが三行目,商が四行目.二行目の最後があまり.あまりが9になった場合は最後の商に1を加算してあまりを0にして完了だ.
ちょっと繰り上がりの処理に改良の余地がありそうだが順に足していく法はなかなか便利だと思う.じつは組立除法とほぼ同じなのである.


 かなり長くなったがいろんな計算の工夫というものがあってそれをうまく使うと手計算や暗算でもすばやく計算できたりするのでぜひ活用して欲しいと思います.

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