その十 作図の話

 その九で初等幾何の話をちょっとだけしたが,図形のもととなるのが点,直線,そして円.これらを描く道具として定木とコンパスのみが与えられているのが普通だ.
(ここでは直線を引く道具を定木と書くことにします.「定規」と書いてしまうと長さを測ることができるように感じてしまい,直線を引くだけが仕事の道具とは別のものになってしまうように思えるからです.)

 この二つの道具に与えられた役割は,
定木:直線を引く
コンパス:円(円弧)を描く
のみ.わずかこれだけの道具でいろんな話が展開できるのである.コンパスの「円を描く」という役割は,「円」=「中心からの距離が一定である点の集合」という定義から「等距離の点をとる」という役割ともいえる.
 中学校で,これらを使った次の二種類の作図を習う.


 [1]線分の垂直二等分線および中点
線分ABの両端の点A,Bから等半径(ABの長さ程度がいい)の二つの円弧を描き,その二つの交点をC,DとすればCDはABの垂直二等分線.ABとCDの交点が線分ABの中点.

 [2]角の二等分線
半直線AB,ACと,点Aを中心とする円との交点をD,Eとし,そのDとEから等半径の円弧を描く.その二つの円弧の交点のうち一方(Aから遠いほうがいい)をFとすればAFは∠BACの二等分線.
垂直二等分線左図で四角形ADBCはひし形.
したがってCD⊥AB,AM=BMとなる.

角の二等分線左図で△ADF≡△AEF
となる.
したがって∠BAF=∠CAF.

 垂直二等分線は二点A,Bから等距離にある点の集合,角の二等分線は半直線AB,ACから等距離にある点の集合.


 これらを応用して次の作図もできる.

 [3]垂線
点Pをとおり直線aに垂直な垂線の作図.
Pを中心としてaと交わるような円を描き,二つの交点をA,Bとする.線分ABの垂直二等分線を引けばPを通る垂線の出来上がり.

 [4]平行線
点Pをとおり直線aに平行な直線の作図.
直線a上に任意に二点A,Bをとる.Pを中心とし半径ABの円とBを中心とし半径PAの円を描き,直線aに対しPと同じ側にある交点をQとすればPQは直線aに平行な直線.
平行線図でPA=QB,AB=PQになっていることから四角形ABQPは平行四辺形.
したがってPQ//AB.


 [1]〜[4]を組み合わせると三角形の五心が作図できる.

 [5]重心
 △ABCのBC,CA,ABの中点をそれぞれD,E,Fとし,線分AD,BE,CFの交点をGとすればGは△ABCの重心.
重心の作図
 [6]外心
 △ABCのBC,CA,ABの垂直二等分線をp,q,rとし,三直線p,q,rの交点をOとすればOは△ABCの外心.
外心の作図
 [7]内心
 △ABCの内角A,B,Cの二等分線をl,m,nとし,三直線l,m,nの交点をIとすればIは△ABCの内心.

 [8]傍心
 △ABCのA,B,Cの外角の二等分線をv,w,xとし,wとx,xとv,vとwの交点をJ,K,LとすればJ,K,Lは△ABCの傍心.
内心・傍心の作図
 [9]垂心
 △ABCの,Aを通りBCに垂直な直線,Bを通りCAに垂直な直線,Cを通りABに垂直な直線をs,t,uとし,三直線s,t,uの交点をHとすればHは△ABCの垂心.
垂心の作図




 さて,通り一遍の作図をしててもしょうがないので制限つき作図をいくつかやってみる.まずは定木のみの作図.

 [ア]二直線a,bが平行であるとき,a上の点ABに対し線分ABの中点が作図できる
直線a上の点をA,B,直線b上の点をC,Dとする.ADとBCの交点をE,ACとBDの交点をF,EFとABとの交点をGとするとGはABの中点だ.
中点の作図なぜならAB//CDより
FC/CA=FD/DB.・・・(1)
AD,BC,FGは一点Eを共有しているのでチェヴァの定理より
(FC/CA)*(AG/GB)*(BD/DF)=1.・・・(2)
(1)(2)よりAG/GB=1となりAG=BG.
したがってGはABの中点だ.


これとは逆に,
 [イ]等間隔に並んだ三点が与えられたら平行線が作れる
[ア]とは逆の手順.与えられた三点をA,G,Bとし,Cを通りABに平行な直線を作る.
半直線ACの延長上に点Fをとる.BCとGFとの交点をEとし,AEとBFの交点をDとすればCDが求める直線.


 次はコンパスのみの作図.今回のメインといってもいい.目標は次の作図
 [ウ]コンパスのみで与えられた四点A,B,C,DからABとCDの交点を作図しうる
これにはちょっと準備が必要.まずは
[A]線分をのばしていく操作
線分ABが与えられているとき,Bを中心として半径BAの円を描く.円周上の点Aから同半径の円弧AP,PQ,QRを作るとARはこの円の直径となる.これを利用して線分ABの自然数倍が作れる.
コンパスで線分延長円B内に正六角形を作る要領でP,Q,Rをとる.その先はRを中心に円弧を描きQからS,Tを作るとBTが円Rの直径,といった具合.


次は
[B]「反転」について
Oを中心とし半径がrの円(円Oと略記する)と,Oと異なる点Pが与えられているとする.半直線OP上の点QがOP*OQ=r2を満たすとき,点Qを円Oに関する点Pの「逆点」といい,円Oと点Pから点Qを作図することを「点Pを円Oに関して反転させる」 という.

反転の作図は次のようにする.
(B-1)OP>r/2のとき(簡単のため「Pが円Oの外部にあるとき」でもよい)
Pを中心とし半径OPの円を描き,円Oとの交点をA,Bとする.A,Bを中心とし半径OAの円弧を描き,二つの円弧のOと異なる交点をQとすればこれが求めるPの逆点.
コンパスで逆点1図で,PA=POより△PAOは二等辺三角形.
また,AO=AQより△AOQも二等辺三角形.
また,∠POA=∠POB,∠QOA=∠QOBよりQはOP上にあり,
∠QOA=∠POA=∠PAOより,△POA∽△AOQ.
PO/OA=AO/OQより
PO*QO=AO2=r2
となってQが求める点であることが確認された.


(B-2)Pが円Oの内部にあるとき
線分をのばす操作を用いて線分OPをのばし,円外に出た点をP'とする(OPをn倍にのばしてOP'=nOPであるとする).(1)の方法でP'の逆点Q'を作り,OQ'をn倍にのばした点をQとすればこれが求めるPの逆点.
コンパスで逆点2OP'=nOPよりOP=OP'/n,
OP*OQ=(OP'/n)*OQ=OP'*OQ/n=OP'*OQ'
となるのでOQ=nOQ'だ.


点を反転させると「逆点」ができる.では点の集合である直線を反転させると何になるか?
(B-3)円Oに対し,その中心Oを通らない直線を反転させると円になる
直線の反転1直線の反転2
 円Oと直線mにおいて,Oをとおりmに垂直な直線をn,mとnとの交点をA,Aの円Oに関する逆点をA',半直線OAと円Oとの交点をBとする.
また,m上のAと異なる点をCとし,Cの円Oに関する逆点をC'とすれば
OA・OA'=OC・OC'=OB2
が成り立つ.
∠AOC=∠COA'なので△AOC∽△C'OA'となり,∠A'C'O=90°.
したがって点Cが直線m上を動くならば点C'はOA'を直径とする円周上を動く.
このことから直線mの反転は反転の中心を通る円であることが分かった.
 逆に,反転の中心を通る円の反転は直線になる.
点Oを通る円の直径をOA',その円のO,A'以外の点をC'とし,A',C'の逆点をA,Cとすれば先ほどと同様に△AOC∽△C'OA'.
したがって∠OACは常に直角となり,CはAを通りOAに垂直な直線上にある.
このことから反転の中心を通る円の反転は直線となることが分かった.


 二直線の交点を,それらの反転である二円の交点の逆点を求めることによって求めるのだ.あとは,与えられた二点からその二点を通る直線の反転である円を作図できればいい.


[C]線分の中点
[A]の半径をのばす作図と[B]の逆点の作図を組み合わせる.
二点A,Bが与えられているとする.このときA,Bの両方から半径ABの円を描き,円B上にACが円Bの直径となるような点Cをとる.円Aに関する点Cの逆点をDとすれば点DはABの中点.
コンパスで中点図で,AC=2ABよりCの逆点DはAD=1/2ABを満たす.したがってDはABの中点.


[D]任意の円の中心の作図
中心が不明で円周aのみが与えられているとする.円周上に点Pをとり,Pを中心としてaと交わるように円を描き,aと円Pとの交点をQ,Rとする.Q,Rを中心として半径PQの円弧を描き,Pでないほうの交点をSとし,円Pに関するSの逆点をTとすれば,Tが求めるaの中心.
コンパスで円の中心QP=QS,RP=RS,△QPS∽△TPQ≡△TPRよりTP=TQ=TRがわかるので,Tは三点P,Q,Rを通る円の中心.
ところがP,Q,Rは円a上の点だったのでTは円aの中心ということになる.


[E]円と直線の交点
(E-1)直線が円Oの中心を通らないとき
円Oと,二点A,Bが与えられているとする(円と直線が交わるものとする).A,Bを中心とし,半径AO,BOの円弧を描きOでない交点をPとする.Pを中心とし円Oと同半径の円を描き,円Oとの交点をC,Dとすればこの二点が求める点.
コンパスで交点1 図で,OPはABの垂直二等分線になっていて,直線ABに対しOと対称な点がP.したがって円Oと円Pは直線ABに対し線対称で,交点QとRは直線AB上にある.

(E-2)ABが点Oを通るとき
このときはOとPが一致してしまい上のようなQとRが決まらない.そのようなときは,Aを中心として円Oと交わるような円を描き,二交点をC,Dとして円O上の弧CDを二等分して交点を求める.
C,Dを中心とし,半径COの円弧を描く.次に,Oを中心として半径CDの円を描き,先ほどの弧との交点のうちAから遠い方をそれぞれE,Fとする.E,Fを中心として半径EDの弧を描き,Aに近い方の交点をGとする.Eを中心とし,半径OGの円を描き円Oと交わった点をQ,RとすればQ,Rが求める点.
コンパスで交点2図でCD=OE,CE=DOよりCDOEは平行四辺形,CD⊥AOよりEO⊥AO.
また,EDはCOの中点を通るので中線定理よりOD2+CD2=2((ED/2)2+(CO/2)2)
分母を払ってCO=DOを使って整理しEDについて解くと
ED2=2OD2+2CD2-CO2=2CD2+CO2
したがって
EG2=2CD2+CO2
△EGOは直角三角形なので
GO2=EG2-EO2=2CD2+CO2-CD2=CD2+CO2
Eを中心とし,半径GOの円を描き,円Oとの交点をQ,Rとしたならば,
EQ2=CD2+CO2
EO2=CD2
QO2=CO2
となって,△EQOは∠EOQが直角の直角三角形となる事が分かり,Qが求める点である事が分かった.


[F]直線の反転
では[E]を用いて実際に直線を反転させてみる.反転の中心Oは直線AB上にないとし,Oを中心とする円が直線ABと交わるものとしてもよい.(交わらないときは半径を大きくし交わるようにしても差し支えない)
(E-1)を用いて円Oと直線ABの交点Q,Rを求める.ABに対しOと対称な点をPとすれば,OPの中点が(B-3)図における点Aにあたり,その逆点をA'とするとOA'が直線ABの反転である円の直径となっていた.したがってOA'の中点が分かればそれが反転である円の中心であるが,ここでOA'の中点をA''とすればOA''=OA'/2よりOA・OA'=OA・(2OA'')=(2OA)・OA''となるが2OA=OPだったのでPの逆点がA''となるのである.改めてPの逆点をP'とし,P'を中心として点Oを通る円を描けば自動的にQとRを通り,求める直線ABの反転である円が得られたのである.

コンパスで反転

同様に,他の二点C,Dに関し直線CDの反転を作図し,その二円の交点の逆点が求める交点になる.反転の中心Oは直線AB,直線CDの両方から離れた点の方が作図しやすい.
コンパスのみで交点
これで完成だがもう何がなにやら.実際の作業はともかく,作図が可能である,という認識は大事.
(参考:『定木とコンパスで挑む数学』大野栄一・講談社ブルーバックス)
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